達日出典『八幡神と神仏習合』
3月に宇佐八幡宮を訪ねようと思い、歴史背景が書かれた本を手に取った。八幡神の成立と伝播について書かれた新書である。
八幡神が神仏習合を先導していたことをちゃんと読んだのは初めてだ。仏教や道教の要素を含んだ新羅の神が渡来人とともに豊前にやってきて、山岳信仰と結びつき日本化するかたちで独自の仏神として八幡神が発展した。仏教要素を大いに含んだ八幡神が本地垂迹の引き金となり仏と神々の習合を引き起こしたという。時の権力に気に入られながら、京都へ影響力を伸ばし、石清水八幡宮や鶴岡八幡宮ができていく。九州に生まれた特殊な「仏神」である八幡神が日本全国へと広まっていく過程を追っていくのはなかなかおもしろい。「神身離脱」「護法善神」といった基本ワードについても改めて知識を整理できた。
元来「仏神」として育まれた宇佐の八幡神が特異性を持っていることを再三指摘しているところに筆者の宇佐八幡宮への愛が見て取れる。基本的に宇佐八幡宮の勧請である他の八幡宮が廃仏毀釈によって本来の雰囲気を失ったことと異なり、宇佐はまだまだ仏教・道教・八百万の神を全て取り込んだような雰囲気を保持しているという。訪れるのが大変楽しみになった。
日比谷図書文化館「ARTISTS MEET BOOKS 本という樹、図書館という森」展
小学校の頃は毎日のように町立図書館に通っていたし、高校・大学の頃は学校図書館に入り浸っていた。当然、大学院では図書館の地下書庫に張り付いていた。溢れんばかりの本棚に囲まれていると精神が高揚する。
日比谷図書文化館で行われている「ARTISTS MEET BOOKS 本という樹、図書館という森」展に行ってきた。若林奮のアーカイブを参照しつつ、DOMANI展に出店している寺崎百合子、宮永愛子、小林孝亘、蓮沼昌宏、折笠良が本・図書館をテーマにした作品を出展している。印象的な作品だけ紹介する。
宮永愛子の「open book」。この人の作品は個人的には詩的すぎて苦手に感じることも多い(当然狙い通りなので流石だとは思う)のだが、この透明な本は「痕跡を閉じ込めている」ような感覚を惹起させてなかなか面白い。
蓮沼昌宏はキノーラといわれる原始的な動画生成装置を何点か出展していた。パンフレットによると映画の先祖であるというこの装置は、蓮沼が言うように確かに「本」である。ハンドルを回すと 「本」が動き出し、アニメーションが生成される。純粋に楽しい体験としてキノーラを回すことで、本・映画・アニメといったメディアの共通性を感じることができるような気がした。
折笠良のショートアニメーションは引き込まれるものだった。石原吉郎、ロラン・バルトの言葉に真正面から向き合った記録として、アニメーションの新たな可能性を感じさせる。
3Fの公共図書館フロアには藤本由紀夫の作品が点在している。本棚や閲覧席に作品が共存している。作品は実際に手に取れるもので、紙を捲る音を楽しむ作品はなんとも心地よい。宝探しのように図書館を探っていき紙を捲る感覚は、まさに図書館の原体験かもしれない。ただただ本棚を眺めながら歩き回り、気になった本を手にとってめくる。情報の横溢を味わうことこそが図書館の魅力だと思っているので、お目当ての本を借りるだけだったり自習室代わりに使うだけだったりすることは図書館の魅力を半減させているように思う。
岡崎守恭『自民党秘史 過ぎ去りし政治家の面影』
岡崎守恭『自民党秘史 過ぎ去りし政治家の面影』(講談社現代新書、2018年)
政治学も政策論議も嫌いじゃないのだが、やはり面白いのは政争と政治家だろう。この本では、いわゆる大物政治家の人となりを日経新聞のベテラン政治記者が語っている。
当然田中角栄、鈴木善幸、中曽根康弘、竹下登といった総理経験者に纏わるエピソードも面白いのだが、いわゆる脇役についてのエピソードが極めて面白い。山中貞則、藤波孝生、原健三郎といった中曽根派の脇を固めた面々だ。
とにかく面白いのは「ヤマテー」こと山中貞則の章。筆者が山中に名物コーナー「私の履歴書」を依頼するとき、中曽根康弘が「貴兄が書けばこの二人(筆者注――田中角栄、金丸信)と並ぶものになるでしょう」と書いた推薦文を携えていったという。しかし山中はこの推薦文を破り捨てる。山中曰く「角と一緒にするのはぎりぎり許せるとしても、金丸ごときと一緒にするとは中曽根も焼きが回ったな (p.121) 」。このエピソードを読めただけもこの本を読んだ価値はあろう。年上かつ当選回数の多い中曽根を「ナカソネクン」と呼び続けたというあたりも「ヤマテー」らしいところなのだろう。
宇野宗佑についての章も面白い。俳人としての一面があることは知っていたが、ここまでの文人だったとは知らなかった。俳号の付け方についての小噺には宇野の性格が溢れ出ていて興味深い。著作『庄屋平兵衛獄門記』『中仙道守山宿』を一度読んでみたいものだ。教養溢れる文人宰相にはなれず不倫問題で退陣してしまったが惜しく感じられる。
政治家好きにはたまらない一冊だろう。タイトルに惹かれる人にとっては間違いなく面白い。
スザンナ・フォーレスト(松尾恭子訳)『人と馬の五〇〇〇年史 文化・産業・戦争』
スザンナ・フォーレスト(松尾恭子訳)『人と馬の五〇〇〇年史 文化・産業・戦争』(原書房、2017年)
馬と人間の関わりを様々なテーマから取り上げていく一冊。構成としては進化、家畜化、野生、文化、力、肉、富、戦というテーマに分けられている。
ジャーナリスト兼作家である作者が馬に纏わる様々なところを取材し、その内容を馬の歴史と織り交ぜながら平明に読者に提示している。モンゴルの自然自治区や中国のポロチーム、アメリカの廃馬処理所など特殊な場所の実情を知ることができるのは面白い。個人的に、肉を取り上げた部分は楽しく読めた。馬肉食を巡る人々の葛藤や反発の歴史はなかなか知ることができない事実なので興味深かった。
専門的な話は少ないのだが、A5判で400ページ越えなので全部読み通すとなると意外と骨が折れる。全体として強いつながりがあるわけでもないので、興味があるところだけ拾い読みすればいいかもしれない。
国立近現代建築資料館「紙の上の建築 日本の建築ドローイング1970s – 1990s」展
面白い展覧会が無いかなとネットを彷徨っていると、こんな記事を見つけた。
多少建築に興味があれば知っているような建築家が紙の上に展開したヴィジョンを無料で見られるというのは魅力的だ。国立近現代建築資料館という施設があることはなんとなく知っていたのだが、湯島にあるとは知らなかった。
湯島合同庁舎の入り口で守衛さんに声をかければ資料館に無料で入れる。外観はこんな感じ。
不思議な雪だるまもあった。
特に面白かった作品だけ感想を。
磯崎新のシルクスクリーンの作品群は、設計される前に建築家が持っているイメージを視覚化したものなのだろうか。コンセプトそのものの美しさを知ることができて大変楽しい。
藤井博巳のドローイングは掛け値なしにカッコいい。軸測投影法という手法だそうだが、この方法が持つ意味については紹介したartscapeの記事に詳しい。
藤井のドローイングを見た時、個人的にはソヴィエトの建築家レオニドフを思い浮かべたことはメモ程度に書いておきたい。建てられざる建築としてペーパー・アーキテクチャを展開していたレオニドフと藤井を比べるのは無理筋ではあるのだが……。
象設計集団が書いた資料群がデジタル映像として閲覧できたことも面白かった。沖縄で実際に都市計画に携わったときの資料は、理想と現実を上手く調和させようとする建築家の腕が見られて興味深かった。
これだけ内容が濃い展覧会が無料であることには驚いたのだが、極めて丁寧なカタログが無料配布されていたことには衝撃。特に最後に付されている「建築ドローイング年譜」は白眉と言えるだろう。
楠淳生+中村健二『野球と実況中継』
私はスポーツアナウンサーの名調子が好きで、競馬や野球の名実況と言われるような場面は何度も見てしまう。この本では関西ではお馴染みであろうABC楠淳生アナが野球中継の技術論について語っている。
前半は高校野球の魅力について語っていてこれはこれで面白く後半へのフリにはなっているうのだが、いかんせん本題との関係は薄いので軽く目を通す程度。内容よりも、ありがちな誤字やミスが目立っていたのが気になった。
後半は実況の技術論。実況の理想的時系列を「状況設定」→「予測実況」→「プレー素描」→「累積実況」というチャートにして示している点は新しい。楠アナ曰く状況設定や素描ができるのはアナウンサーの最低条件であり、一流の実況アナウンサーにとってはユーザーに起こりうる選択肢を提示する「予測実況」と試合・シーズンなどの流れの繋がりを強調する「累積実況」ができることが重要だという。ベテランアナウンサーになればなるほど「予測実況」「累積実況」の実況中に占める割合が上がってくるというデータはなかなか興味深い。
もう少し「予測実況」と「累積実況」それぞれについてさらに突っ込んだ話が聞きたかった気もする。ややもすればくどくなりがちな(というか個人的には楠アナはくどいと思ってしまう)「予測実況」「累積実況」の質をどのような評価するのかという軸は提示されているようには思えなかった。とはいえ、スマホアプリの台頭のなかで実況の付加要素を強調して中継のあり方を見直すという試みは極めて有意義であろう。
北川の代打逆転サヨナラ満塁優勝決定ホームランの実況や福本豊との「たこやき事件」「居酒屋実況」についてのこぼれ話が気になる人も一読してみるといいだろう。最終章のアメリカ研修の話もなかなか面白い。意識的に英語を取り入れるようにしたという話では近藤祐司アナを思い出したが交流はあるのだろうか。
野球中継が好きだという人は一読してみるといいかもしれない。
志多美屋本店のソースカツ丼 @群馬県桐生市
先日桐生市へ行ったとき、折角だから名物的なものを食べようと訪れたのが志多美屋本店。
外観はこんな感じ。
なかなか名店の香り漂う佇まい。
私は2台しか止められない狭い駐車場に停めましたが、提携しているコインパーキングがあるようなのでそこに停めるのがベストでしょう。
13時ごろに店に入ったのだがなかなかの盛況ぶりで、10分ほど待ってから着席。 なんとここはソースカツ丼の元祖だということで誰かの掛け軸も……(まさかあの光司氏ではないだろう)
注文から10分ほどしてソースカツ丼(4個入り)大盛 1000円が到着。
意外と質素な感じだなというのが第一印象。しかし食べてみると予想以上に美味しい。ヒレカツはとても柔らかくパサパサ感は全くない。ソースにしっかり潜らせていながらも衣のザクッと感が保たれている。
ソースはウスターベースに和風の香りもあり最後にはスパイシーな後味もあるかなりサッパリしたもの。ソースのしみたご飯が大変美味で、うな重のご飯食べてるような気分になる。全体的に驚くほどサッパリしており、箸が止まることなく完食。
ソースカツ丼というと単にとんかつ定食を丼にしたものだと思っていたが、オリジナリティ溢れる美味しい一品だった。今度来た時はロースも食べてみたい。