座敷牢群島

日頃触れ合った様々な文化についての備忘録となっております。

岡崎守恭『自民党秘史 過ぎ去りし政治家の面影』

 岡崎守恭『自民党秘史 過ぎ去りし政治家の面影』(講談社現代新書、2018年)

 

 政治学も政策論議も嫌いじゃないのだが、やはり面白いのは政争と政治家だろう。この本では、いわゆる大物政治家の人となりを日経新聞のベテラン政治記者が語っている。

 当然田中角栄鈴木善幸中曽根康弘竹下登といった総理経験者に纏わるエピソードも面白いのだが、いわゆる脇役についてのエピソードが極めて面白い。山中貞則藤波孝生原健三郎といった中曽根派の脇を固めた面々だ。

 とにかく面白いのは「ヤマテー」こと山中貞則の章。筆者が山中に名物コーナー「私の履歴書」を依頼するとき、中曽根康弘が「貴兄が書けばこの二人(筆者注――田中角栄金丸信)と並ぶものになるでしょう」と書いた推薦文を携えていったという。しかし山中はこの推薦文を破り捨てる。山中曰く「角と一緒にするのはぎりぎり許せるとしても、金丸ごときと一緒にするとは中曽根も焼きが回ったな (p.121) 」。このエピソードを読めただけもこの本を読んだ価値はあろう。年上かつ当選回数の多い中曽根を「ナカソネクン」と呼び続けたというあたりも「ヤマテー」らしいところなのだろう。

 宇野宗佑についての章も面白い。俳人としての一面があることは知っていたが、ここまでの文人だったとは知らなかった。俳号の付け方についての小噺には宇野の性格が溢れ出ていて興味深い。著作『庄屋平兵衛獄門記』『中仙道守山宿』を一度読んでみたいものだ。教養溢れる文人宰相にはなれず不倫問題で退陣してしまったが惜しく感じられる。

 政治家好きにはたまらない一冊だろう。タイトルに惹かれる人にとっては間違いなく面白い。