座敷牢群島

日頃触れ合った様々な文化についての備忘録となっております。

国立科学博物館「南方熊楠 -100年早かった智の人-」と21_21 DESIGN SIGHT「野生展」

 2017年は南方熊楠生誕150年であり、表題に挙げたように年末から南方熊楠関連の展覧会が東京で2つ開催されていた。国立科学博物館南方熊楠 -100年早かった智の人-」は行っておいて損はない。順番としては、まず「野生展」を見てから、後日「南方熊楠」を見に行った。

 21_21 DESIGN SIGHT「野生展」は南方熊楠をきっかけに「野生」に注目している。中沢新一がディレクターなので「最高!」or「最悪!」という感想を期待して行ったのだが、なんとも言えないものを出されてしまった。もう少し充実した展示だとよかったのだが。なんか期待はずれだよなと自分勝手な感想を抱きながら退場。

 個人的に気になった作品は青木美歌。去年個展に行きそびれたのでここで見られたのは良かった。ガラスを用いて作られた粘菌や細胞が光を吸収しながら、まるで生きているかのようなパワーを持って我々の前に迫ってくる。

「あなたに続く森」

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「Between You & I」

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  渡邊拓也「道具と作ることのインスタレーション -case1-」は粘土で作られた道具たちが一同に並べられている。手で形作った痕などがついていてただ眺めているだけでも結構面白い。ずいぶん適当に作ってるなというものから丁寧に整形されているものまであってどういう考えなのかと単純に不思議に思った。なぜか魅力的である。

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 「野生展」に若干失望気味になったあとに向かった国立科学博物館南方熊楠 -100年早かった智の人-」は素晴らしかった。情報提供者として南方熊楠を捉え直すというコンセプトがしっかりしている。

 

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  熊楠はとにかく古今東西の書物を抜書きし、標本をかき集めている。彼は子供時代に出会った『和漢三才図会』を抜書きすることに楽しみを覚えていたという。この知識収集への喜びが彼の人生に通底するものであったことは間違いないだろう。彼は人生において「ロンドン抜書」「熊野抜書」と呼ばれる大量の文献の抜書を残している。

 

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  大英図書館では様々な稀覯本から抜書きを繰り返し、それを素材としてネイチャー誌などに論文を投稿していたという。今で言う研究とは趣は異なる広義の博物学と言っていいだろう。とにかく書籍から知識を集めて整理することが楽しく、さらにそれを他人に見せることが楽しいということなのだろう。

 

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 数千枚にも及ぶという『菌類図譜』だが、その絵はとても上手いとは言えない。牧野富太郎なんかと比べると雲泥の差だろう。他人に見せることよりも収集する喜びが勝っていたと考えるほうがいいように思える。展覧会では「遠い将来の利用に向けて」収集していたのかもしれないと書いてあったが、私にはそこまで具体的な構想があったような気配は感じなかった。

 

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 『十二支考』の「虎」の腹稿には熊楠の試行錯誤が現れている。古今東西から集めた資料を大きな紙に書き出し情報同士の繋がりを整理していく作業には感心する。たまに自分でも似たようなことをやってみることはあるのだが如何せん知識が少ないので寂しいものとなってゴミ箱行きとなる。

 最終的にGoogleWikipediaのあり方と熊楠の知のあり方を繋げるという着地点だった。結局「たくさん材料がある」という事実を感覚的にわかっている人間は意外と少なく、一つの正解をインターネットに求めている人が多いのが実情なのではないかなと考えてしまった。

 今の御時世に熊楠的な人が現れても、所謂アカデミアには居場所がないだろうなあと何故かしみじみ。在野の人間にとっては情報収集が容易になった今の時代こそ熊楠的知識欲を大いに満たすチャンスなのかもしれない。