座敷牢群島

日頃触れ合った様々な文化についての備忘録となっております。

ギンザ・グラフィック・ギャラリー「ウィム・クロウエル グリッドに魅せられて」展

 「グリッドに魅せられて」というタイトルが示すように、ウィム・クロウエルは「グリッド」を厳密なルールとしてシステマチックにデザインを創造したデザイナーである。コンピューター時代の今でこそグリッドはデザインの基本だが、彼はコンピューター前の時代に厳密にグリッドを追求していた。

 会場で上映されていたインタビューは非常に印象的な内容であった。作品を依頼されたときに彼はまず「ピッチ」としてグリッドを定め、そのなかで「ゲーム」としてデザインを行うという。コミュニケーション手段としてデザインを捉えている彼は中立的なアプローチを最優先としており、自分の感性が介在する「デザイン」は制作過程の最後になってようやく現れるものだと語っている。

 実際に展示された展覧会のポスター類を見ていくと、極めてシンプルで情報が極めてわかりやすく示されていることに気がつく。しかし厳密にグリッドに則ってデザインされていることにもかかわらず、展覧会それぞれの個性も殺されていない。クロウエルはファン・アッベ市立美術館とアムステルダム市立美術館でポスター・図録のデザインをトータルに手がけていた。トータルデザインやグリッドといった現代デザインの基礎となるあり方の魁だったと言えるだろう。

 クロウエルのグリッドシステムはタイポグラフィにも及んでおり、直交グリッドで抽象的に作り上げられたNew Alphabetは不思議な魅力を持っている。New Alphabet製作時のデッサンも展示されており、制作過程を伺えて楽しい。カレンダーや切手、ロゴマークなどクロウエルの多岐にわたる仕事も展示されており、クロウエルの思考が持つ広がりを実感できる。