座敷牢群島

日頃触れ合った様々な文化についての備忘録となっております。

東京都写真美術館「『光画』と新興写真 モダニズムの日本」

 東京都写真美術館で「『光画』と新興写真 モダニズムの日本」が開催中だ。戦後写真に埋もれがちな戦前写真をしっかり取り上げる展覧会には非常に興味があり、久しぶりに都写美に足を踏み入れることとなった。

 絵画の支配下にあった写真が独自の芸術的位置を獲得するためには、写真自らの性質を理解する必要があった。今回展示されている作品群は、モホイ=ナジやリシツキーなどを参考にしながら新興写真運動の写真家たちが「写真はいかに芸術たりえるか」という問いに答えるなかで生まれた作品と言える。

 写真は肉眼で見るときには意識されない世界を瞬間的に閉じ込める(それゆえに写真を撮るという営為は当然ながら「異化」だ)ことができる。カメラは歪みや を伴う特殊な光学装置である。これらの特性を写真家たちが意識することによって「新興写真」が成立していったと良いだろう。『光画』のイデオローグであった伊奈信男が打ち出したマニフェスト論文「写真に帰れ」については以下のリンクに簡潔にまとめられている。
 (http://artscape.jp/artword/index.php/%E3%80%8C%E5%86%99%E7%9C%9F%E3%81%AB%E5%B8%B0%E3%82%8C%E3%80%8D%E4%BC%8A%E5%A5%88%E4%BF%A1%E7%94%B7
 
 木村伊兵衛や野島良三の作品も多く展示されているのだが、やはりそれ以外のそこまで見る機会のない作家の方に注目してしまう。

 飯田幸次郎は初めて知った作家だったが、画面の構成感覚が大変素晴らしく魅入ってしまった。大量の看板と建物だけで構成された「看板風景」は静謐でありながら見ていると心がざわめく。「ラクガキ」のような茶目っ気を感じさせる作品もある。非常に気になる作家だ。最近まで経歴などもわかっていなかったようだが、飯沢耕太郎氏らによる資料の再発見で経歴が判明し写真集も出たようだ。

 中山岩太は名前は知っていたが意識してプリントを直接見る機会は初めてだった。モンタージュを上手く使った幻想的な作品には強く惹きつけられた。いわゆる前衛写真の影響を強く受けていることは間違いないが、モダンと幻想を彷徨うような世界観には独自の詩情が迸っている。絵画では表現できない世界を見せようという強い意志の一貫性が感じられる。

 中山岩太と同じく芦屋で活動していたハナヤ勘兵衛の作品も面白い。「ナンデェ!!」の躍動感などはカメラの特性を利用して作った感じが直截に感じられて楽しい。

 図録はかなり情報充実していたので興味のある方にはオススメできる、おそらく重要資料と言える。しっかり作られている分値段も結構お高いので私は買わず……