藤井猛『四間飛車上達法』
本書は、ありきたりな技術書ではありません。私の主観を全面に出した、講義形式の全く新しい一冊となっています。(p. 3)
緒言のこの文に本書の特異性が現れていると言っていい。単に定跡を紹介したり実戦譜を解説したりするのではなく対話形式を取り入れたことによって、藤井猛の将棋思想が読者にクリアに提示されている。将棋を指す上で身につけるべき感覚を講義のように教えてくれるこの本は、たしかに「指しこなす本」でも「急所」でもなく「上達法」。これだけ良質の講義を僅か1400円で受けられるというのは驚きだ。
この本は全5章で構成されている。
- 対抗型とは何か――駒組みの基本と隠された仕組み
- 攻めについて――6七銀型と棒銀
- 一手争いについて――7八銀型と右銀急戦
- 主導権を握ったら――持久戦と6六銀型
- 攻めエリアを拡大せよ――5六銀型と藤井システム
藤井九段の思考の組み上げ方の一端に触れられるような気がすることが個人的にはこの本の最大の魅力である。かつて藤井九段は「自分には直感がない、だからこそ藤井システムができた」ということを書いていたが、このような思考のあり様は一手づつ手の意味を丁寧に積み上げていくこの本のあり方にも重なるように思える。講義という形式を通して、藤井九段の思考そのものが有機的な「システム」として浮かび上がってくるような本だと言えるかもしれない。