座敷牢群島

日頃触れ合った様々な文化についての備忘録となっております。

鹿野雄一『溺れる魚、空飛ぶ魚、消えゆく魚 モンスーンアジア淡水魚探訪』

鹿野雄一『溺れる魚、空飛ぶ魚、消えゆく魚 モンスーンアジア淡水魚探訪』(共立出版、2018年)

 著者の淡水魚への愛、そして淡水魚の住む環境への愛は非常に強い。魚への態度はまさに現場派といってよく、学会の昼休みには網とバケツを持って魚とりに出かけるほどだとのこと。そんな著者による淡水魚が持つ多様性についての基礎知識の紹介とアジアモンスーンの淡水魚生息現場によるフィールドワークの記録である。
 純淡水魚、通し回遊魚、汽水魚といった淡水魚のなかでの種類分けや、α多様性、β多様性、γ多様性という概念(参照:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A8%AE%E5%A4%9A%E6%A7%98%E6%80%A7#%E6%AF%94%E8%BC%83%E3%81%99%E3%82%8B%E7%A9%BA%E9%96%93%E9%9A%8E%E5%B1%A4%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%8C%BA%E5%88%86)についての詳細は初めて知った。他環境と比べた時に独自の種を持っていることを示すβ多様性が高いことが淡水魚の特徴であり、特に生活範囲の限定される純淡水魚はこのβ多様性が高いという。
 東南アジアや東アジアなどのアジアモンスーンは淡水魚多様性が高い地域でありであり、淡水魚が人々の暮らしに深く根付いてきた地域である。多様な淡水魚のなかには溺れる魚や空飛ぶ魚、歩く魚などもいるのだ。第2章では東南アジア各地、第3章では東アジア各地でのレポートが展開される。カンボジアやマレーシア、奄美大島白神山地など様々な現場からの生の情報は直接多様な世界を目撃できるような感覚を覚えさせてくれる。
 淡水魚が織りなす極めて魅力的な世界を覗き見ることができる喜びとともに、このような多様性が人間によって徐々に消滅へと向かっていることへの危機感も感じた。詳しさと分かりやすさが上手く両立できているので、事前知識が無くても読むことができる。たまたま手に取った本だが、魚類学や生物多様性への入門書として大変参考になった。