座敷牢群島

日頃触れ合った様々な文化についての備忘録となっております。

東京ステーションギャラリー「くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質」


 北海道から帰宅する飛行機が大幅に遅れ、急遽東京駅近くで一夜を明かすことになった。せっかくなので翌朝に「くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質」開催中の東京ステーションギャラリーへと向かった。
 この展覧会は、今まで隈が手がけてきた様々なプロジェクトを物質に着目して概観する。10種類の素材(竹、木、紙、土、石、金属、ガラス、瓦、樹脂、膜・繊維)ごとにセクションを分け、模型や実物大部品を展示している。
 また、隈の「物質への挑戦」の全体像は樹形図として可視化されている。この樹形図は自らのプロジェクトを素材を10種類(前掲)、操作を5種類(粒子化、編む、支え合う、包む、積む)、幾何学を3種類(格子、多角形、円弧・螺旋)に分類し、年代順にプロットしたものだ。隈が持ち続けている素材への拘りがわかりやすく鑑賞者に示されている。
 素材へのアプローチは極めてわかりやすく、我々が日頃感じている感覚を強調するものである。例えば、竹のしなやかさ、石の持つ歴史、樹脂の軽さなどの特性が五感に訴えかける形で強調される。どこか似通ってくるデザインには迸るセンスのようなものは感じないのだが、様々な素材を上手く処理している隈研吾の器用さには舌を巻く。

 

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 場所や用途を問わずに多くのプロジェクトが様々な素材を用いて作られる。この手際の良さゆえに多くのプロジェクトが彼に舞い込んでくるのだろう。
 セクション別に分けられた展覧会を見ていくうちに浮かび上がるのは、10の素材ではなくむしろそのなかには含まれていないコンクリートの存在だ。
 「20世紀はコンクリートのせいで会話は固くなり、人間の表情もずいぶん暗くなった」とこの展覧会の開催に当たり、隈は語ったという。あまりにも直截的なコンクリート批判には苦笑せざるを得ないが、このコンクリートへの批判精神は彼の建築の基層となっているように思える。香り、温かみ、軽さ、しなやかさ、柔らかさ、歴史といった特性はコンクリートに欠如した特性として隈には捉えられており、コンクリート主体の時代が失った精神を建築において提示しているとも言えるかもしれない。コンクリート建築が高度成長の時代精神であるとすれば、隈によるコンクリートへの反発は(良し悪しは抜きにして)新たな時代の精神を捉えていると言える。隈研吾が機を見るに敏であり器用であるという簡単なようで難しい長所を持っていることを再認識すると、「隈研吾フィーバー」は全く不思議ではないのだ。