座敷牢群島

日頃触れ合った様々な文化についての備忘録となっております。

王 銘エン『棋士とAI ―― アルファ碁から始まった未来』

 王銘エン棋士とAI ―― アルファ碁から始まった未来』(岩波新書、2018年)

 

 囲碁棋士の立場からアルファ碁の実像、AIと人間の関わり方について迫った一冊。書店で『囲碁AI新時代』を立ち読みしたときは囲碁素人では流石に読むのが辛いと思ったが、本書は囲碁が殆どわからない私でもすらすら読める。

 「アルファ碁はわかりにくい」という意見を筆者は明確に否定している、確かにログが残るのだから当然である。アルファ碁の「わかりにくさ」は打ち手の思考過程や棋譜を殆ど公開しないgoogleの情報公開の不十分さを指摘する筆者は、そんな隠蔽体質によって素性が隠された状態で本当に「AIと手を取り合える」のかと問うている。

 将棋電王戦によってなんとなく知っていた水平線効果についても言及あり。その場しのぎのような手を打ってしまうこの効果はAI特有の弱点のように言われているが、人間の方がよっぽど都合の悪いことを考えないようにしていると筆者は指摘する。むしろ人間とAIは「水平線効果仲間」というのは面白い指摘。人間とAIは同じような弱点を孕んでいることを認識しておくことは大事だろう。

 局面ごとに評価をくだしていくアルファ碁は、序盤・中盤・終盤や手の流れといった「ストーリー」を持たず全体/部分に分ける考え方もしない、それゆえにアルファ碁には「戦略」がないというのは気が付かなかった。コンピューター将棋の場合は逆に定跡勝負になってる場合もあるけど、圧倒的なリソースを注ぎ込めばそういう問題ではなくなるのだろうか。

 後半はAIと人間の関わり方について筆者なりの考えが展開されている。なかなかおもしろいことを言っているとは思うが、前半の面白さに比べると劣るかも。とにかく筆者が強調するのはAIについての情報不足であり、開発側の情報開示の責任を強調している。議論の前提を作ることがAIとの共存の第一歩であるというのは首肯できる。