座敷牢群島

日頃触れ合った様々な文化についての備忘録となっております。

読書

堀田善衛『ゴヤ』

堀田善衛『ゴヤ I~IV』(集英社文庫、2010~2011)[単行本 新潮社 1974~77] この作品で描かれる偉大なる芸術家は世間一般で言うところの芸術家像とは乖離している。むしろ身分階級を駆け上がった成り上がり者であり、20人の子供を孕ませた種馬である。それ…

祖父江慎、藤田重信、加島卓、鈴木広光 『文字のデザイン・書体の不思議』

祖父江慎、藤田重信、加島卓、鈴木広光 『文字のデザイン・書体の不思議』(左右社、神戸芸術工科大学レクチャーブックス2、2008年) 神戸芸術工科大学の1年生に向けて行われた4回の特別講義の内容をまとめた一冊。 ・祖父江慎「ブックデザインとかなもじ書…

斎藤美奈子『文章読本さん江』

斎藤美奈子『文章読本さん江』(筑摩書房、2002年) 個人的には「文章読本」と言われる本を読むことは好きではない。なぜならそんなものを読んだところで文章を書くのがうまくなるとは到底思えないからであり、仮にうまくなったところでその文章が魅力的だと…

柏原宏紀『明治の技術官僚 近代日本を作った長州五傑』

柏原宏紀『明治の技術官僚 近代日本を作った長州五傑』(中公新書、2018年) 長州五傑という名前はなんとなく聞いたことがあるが、伊藤博文と井上馨以外の名前は出てこない。井上勝は聞けばなんとなくわかるのだが、山尾庸三と遠藤謹助については正直名…

中西進『柿本人麻呂』

中西進『柿本人麻呂』(講談社学術文庫、1991年) [単行本 筑摩書房、1970年] ある程度古典教育を受けた人であれば柿本人麻呂の名前を知らない人はいないだろう。とはいえ、何故人麻呂の和歌がここまで日本文化のなかで強い意味を持ち続けているのかはなかな…

森銑三『渡辺崋山』

森銑三『渡辺崋山』(中公文庫、1978年)[創元選書、1941年] 中村真一郎『頼山陽とその時代』を読んでから史伝熱が湧いてきたので、かつて古本屋で買って放置していた森銑三の人物評伝を読むことにした。まずは『渡辺崋山』である。2年ほど前に石川淳の同名…

吉川幸次郎『陶淵明伝』

吉川幸次郎『陶淵明伝』(ちくま学芸文庫、2008年)[新潮文庫、1958年] 陶淵明をちゃんと読んでみようと思っているところでたまたまこの本を古本屋で見つけたので購入してみた。 冒頭は陶淵明が自らに宛てた「自祭文」から始まる。この詩に書かれている自由…

牧角悦子『ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 詩経・楚辞』

牧角悦子『ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 詩経・楚辞』(角川ソフィア文庫、2012年) 「詩経」は儒教の経典として解釈されてきた歴史が長い。筆者はこのような解釈から離れて、古代の人々の心を歌う詩として向かい合う姿勢をとる。 詩経には恋を成就…

小山慶太『 〈どんでん返し〉の科学史 蘇る錬金術、天動説、自然発生説』

小山慶太『 〈どんでん返し〉の科学史 蘇る錬金術、天動説、自然発生説』(中公新書、2018年) 今となっては荒唐無稽な概念として扱われる錬金術、天動説、不可秤量物質、自然発生説などをキーとして科学史を描き出した一冊。物理学や電磁気学、生物学など様…

河口俊彦『一局の将棋 一回の人生』

河口俊彦『一局の将棋 一回の人生』(新潮文庫、1994年) 「新人類の鬼譜」「運命の棋譜」「待ったをしたい棋譜」の三部からなる河口老師の将棋エッセイ集。 今となっては想像できないが、羽生もなかなかタイトルが取れないと言われていた時期があった。逆に…

パウル・ベッカー『西洋音楽史』

パウル・ベッカー(河上徹太郎訳)『西洋音楽史』(新潮文庫、1955年) 1924年に行った1回30分×20回のラジオ講義を基にした西洋音楽史。ギリシャ音楽から現代(1924年)までの西洋音楽を形式変化の歴史、「メタモルフォーゼ」の歴史として捉えている。私は音…

中村真一郎『頼山陽とその時代』

中村真一郎『頼山陽とその時代』(中央公論社、1971年) 戦後文学の旗手であった中村真一郎は妻の自殺によって酷い神経障害に陥った。神経を病んだ彼にはおだやかな意識統一が必要であり、刺激の少ない江戸漢詩や詩人伝を読むことは格好のリハビリテーション…

吉村昭『間宮林蔵』

吉村昭『間宮林蔵』(講談社文庫、1987年)[単行本:講談社、1982年] 択捉島シャナ会所へのロシア船襲撃から物語は始まる。僅かな人数のロシア人に怯え武士たちは無様に逃げ出す。しかし、そのなかで間宮林蔵は強く抵抗することを訴え、自分だけは抵抗しよう…

鹿野雄一『溺れる魚、空飛ぶ魚、消えゆく魚 モンスーンアジア淡水魚探訪』

鹿野雄一『溺れる魚、空飛ぶ魚、消えゆく魚 モンスーンアジア淡水魚探訪』(共立出版、2018年) 著者の淡水魚への愛、そして淡水魚の住む環境への愛は非常に強い。魚への態度はまさに現場派といってよく、学会の昼休みには網とバケツを持って魚とりに出かけ…

熊倉功夫『後水尾天皇』

熊倉功夫『後水尾天皇』(中公文庫、2010年)[『後水尾院』(朝日新聞社、1982年)→『後水尾天皇』(岩波同時代ライブラリー、1994年)を加筆修正した文庫版] 織豊政権から江戸幕府確立まで移行期は、成り上がりの可能性を秘めた下剋上の時代から、社会変動…

萩原朔太郎『詩の原理』

萩原朔太郎『詩の原理』(新潮文庫、1954年 青空文庫:http://www.aozora.gr.jp/cards/000067/files/2843_26253.html) 詩とはなにかという疑問に真っ向から対峙して普遍的な答えを導こうという萩原朔太郎の詩論。内容論と形式論に分けて、明晰な言葉で詩を…

瀬川拓郎『アイヌ学入門』

瀬川拓郎『アイヌ学入門』(講談社現代新書、2015) アイヌ=縄文人という認識を持っている人間は少なくないだろう。当然、完全な等号で結ぶことはできないとわかっていても、縄文から変わることなく太古の生活を守り続けてきた民族としてアイヌを捉えている…

吉川英治『三国志』

吉川英治『三国志(一)~(八)』(吉川英治歴史時代文庫) 断片的には知っているが実際には読んだことがないという作品はかなり多い。『三国志』はそのような作品の一つであった。「水魚の交わり」「泣いて馬謖を斬る」「死せる孔明生ける仲達を走らす」な…

吉村昭『戦艦武蔵』

吉村昭『戦艦武蔵』(1971年、新潮文庫)[単行本 1966年、新潮社] 漁具に用いられる棕櫚の繊維が市場から姿を消し、漁師たちが異変に気がつく場面から作品は始まる。安定供給されているはずの棕櫚が消えることに漁師は首をひねるばかりだ。この棕櫚を買い漁…

小泉義之『あたらしい狂気の歴史 精神病理の哲学』

小泉義之『あたらしい狂気の歴史 精神病理の哲学』(2018年、青土社) この本が追うのは「狂気」とは何かという問いではなく、「狂気」を取り巻いてきた精神医学と実践の歴史である。精神医学への筆者の強い疑念は、「はじめに」で直接的に表現されている。 …

海音寺潮五郎『二本の銀杏』

海音寺潮五郎『二本の銀杏(上・下)』(1998年、文春文庫)[初出:昭和34年10月21日~36年1月6日「東京新聞」夕刊] 昭和の時代小説作家といえば必ず名前が出るのが海音寺潮五郎であるが、読んだことは無かった。手にとって見ると、重苦しさを感じさせない文…

王 銘エン『棋士とAI ―― アルファ碁から始まった未来』

王銘エン『棋士とAI ―― アルファ碁から始まった未来』(岩波新書、2018年) 囲碁棋士の立場からアルファ碁の実像、AIと人間の関わり方について迫った一冊。書店で『囲碁AI新時代』を立ち読みしたときは囲碁素人では流石に読むのが辛いと思ったが、本書は囲碁…

倉本一宏『藤原氏 権力中枢の一族』

倉本一宏『藤原氏 権力中枢の一族』(中公新書、2017年) 藤原氏がいかに権力を握り続けたかをコンパクトにまとめた一冊だが、筆者が「はじめに」で語っている野望は意外にも大きい。藤原氏の権力掌握の様相のなかに潜む大きな意義について筆者は以下のよう…

達日出典『八幡神と神仏習合』

達日出典『八幡神と神仏習合』(講談社現代新書、2007年) 3月に宇佐八幡宮を訪ねようと思い、歴史背景が書かれた本を手に取った。八幡神の成立と伝播について書かれた新書である。 八幡神が神仏習合を先導していたことをちゃんと読んだのは初めてだ。仏教や…

日比谷図書文化館「ARTISTS MEET BOOKS 本という樹、図書館という森」展

小学校の頃は毎日のように町立図書館に通っていたし、高校・大学の頃は学校図書館に入り浸っていた。当然、大学院では図書館の地下書庫に張り付いていた。溢れんばかりの本棚に囲まれていると精神が高揚する。 日比谷図書文化館で行われている「ARTISTS MEET…

岡崎守恭『自民党秘史 過ぎ去りし政治家の面影』

岡崎守恭『自民党秘史 過ぎ去りし政治家の面影』(講談社現代新書、2018年) 政治学も政策論議も嫌いじゃないのだが、やはり面白いのは政争と政治家だろう。この本では、いわゆる大物政治家の人となりを日経新聞のベテラン政治記者が語っている。 当然田中角…

スザンナ・フォーレスト(松尾恭子訳)『人と馬の五〇〇〇年史 文化・産業・戦争』

スザンナ・フォーレスト(松尾恭子訳)『人と馬の五〇〇〇年史 文化・産業・戦争』(原書房、2017年) 馬と人間の関わりを様々なテーマから取り上げていく一冊。構成としては進化、家畜化、野生、文化、力、肉、富、戦というテーマに分けられている。 ジャー…

楠淳生+中村健二『野球と実況中継』

楠淳生、中村健二『野球と実況中継』(彩流社、2017) 私はスポーツアナウンサーの名調子が好きで、競馬や野球の名実況と言われるような場面は何度も見てしまう。この本では関西ではお馴染みであろうABC楠淳生アナが野球中継の技術論について語っている。 前…

藤井猛『四間飛車上達法』

藤井猛『四間飛車上達法』(浅川書房、2017年) 本書は、ありきたりな技術書ではありません。私の主観を全面に出した、講義形式の全く新しい一冊となっています。(p. 3) 緒言のこの文に本書の特異性が現れていると言っていい。単に定跡を紹介したり実戦譜を…

宮沢輝夫『秋田犬』

宮沢輝夫『秋田犬』(文春新書、2017年) タイトルの通り秋田犬について書かれた一冊。昨年末というタイミングで出されたのは戌年を意識したのだろうか。 第1章は秋田犬の世界での知名度の高さについて、第2章では秋田犬という犬種がいかにして産み出されて…