座敷牢群島

日頃触れ合った様々な文化についての備忘録となっております。

堀田善衛『ゴヤ』

堀田善衛『ゴヤ I~IV』(集英社文庫、2010~2011)[単行本 新潮社 1974~77] この作品で描かれる偉大なる芸術家は世間一般で言うところの芸術家像とは乖離している。むしろ身分階級を駆け上がった成り上がり者であり、20人の子供を孕ませた種馬である。それ…

祖父江慎、藤田重信、加島卓、鈴木広光 『文字のデザイン・書体の不思議』

祖父江慎、藤田重信、加島卓、鈴木広光 『文字のデザイン・書体の不思議』(左右社、神戸芸術工科大学レクチャーブックス2、2008年) 神戸芸術工科大学の1年生に向けて行われた4回の特別講義の内容をまとめた一冊。 ・祖父江慎「ブックデザインとかなもじ書…

斎藤美奈子『文章読本さん江』

斎藤美奈子『文章読本さん江』(筑摩書房、2002年) 個人的には「文章読本」と言われる本を読むことは好きではない。なぜならそんなものを読んだところで文章を書くのがうまくなるとは到底思えないからであり、仮にうまくなったところでその文章が魅力的だと…

柏原宏紀『明治の技術官僚 近代日本を作った長州五傑』

柏原宏紀『明治の技術官僚 近代日本を作った長州五傑』(中公新書、2018年) 長州五傑という名前はなんとなく聞いたことがあるが、伊藤博文と井上馨以外の名前は出てこない。井上勝は聞けばなんとなくわかるのだが、山尾庸三と遠藤謹助については正直名…

ギンザ・グラフィック・ギャラリー「ウィム・クロウエル グリッドに魅せられて」展

「グリッドに魅せられて」というタイトルが示すように、ウィム・クロウエルは「グリッド」を厳密なルールとしてシステマチックにデザインを創造したデザイナーである。コンピューター時代の今でこそグリッドはデザインの基本だが、彼はコンピューター前の時…

2018-19POG指名馬

ダービーデーの夜に恒例のPOGドラフト会議を行ったので、備忘録代わりに指名馬一覧を残そうと思います。 表ドラフト 10頭(23人×10頭) 1位 プリティカリーナの16 牡 2位 シアトルサンセットの16 牡 3位 サンデースマイルIIの16 牝 4位 タッチIIの16 牡 5位 …

京都国立博物館「池大雅 天衣無縫の旅の画家」

GW前半に特に予定も無かったので京都まで行って池大雅の回顧展を見ることにした。時期が時期なので混んでいるかなと思ったが、そこまで混雑していなかったので助かった。 回顧展は85年ぶりだという。確かに同時代の画家に比べると扱いは地味だった気もする………

中西進『柿本人麻呂』

中西進『柿本人麻呂』(講談社学術文庫、1991年) [単行本 筑摩書房、1970年] ある程度古典教育を受けた人であれば柿本人麻呂の名前を知らない人はいないだろう。とはいえ、何故人麻呂の和歌がここまで日本文化のなかで強い意味を持ち続けているのかはなかな…

森銑三『渡辺崋山』

森銑三『渡辺崋山』(中公文庫、1978年)[創元選書、1941年] 中村真一郎『頼山陽とその時代』を読んでから史伝熱が湧いてきたので、かつて古本屋で買って放置していた森銑三の人物評伝を読むことにした。まずは『渡辺崋山』である。2年ほど前に石川淳の同名…

姫路市立美術館「連作の小宇宙」

姫路駅から歩いて15分ほどのところに姫路市立美術館がある。庭園を囲むように建っている赤レンガ造りの建物はもともと陸軍兵器廠だったらしい。 今回「連作の小宇宙」という連作というあり方に焦点を当てた展覧会が催され、様々な連作を並べて展示している。…

吉川幸次郎『陶淵明伝』

吉川幸次郎『陶淵明伝』(ちくま学芸文庫、2008年)[新潮文庫、1958年] 陶淵明をちゃんと読んでみようと思っているところでたまたまこの本を古本屋で見つけたので購入してみた。 冒頭は陶淵明が自らに宛てた「自祭文」から始まる。この詩に書かれている自由…

牧角悦子『ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 詩経・楚辞』

牧角悦子『ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 詩経・楚辞』(角川ソフィア文庫、2012年) 「詩経」は儒教の経典として解釈されてきた歴史が長い。筆者はこのような解釈から離れて、古代の人々の心を歌う詩として向かい合う姿勢をとる。 詩経には恋を成就…

小山慶太『 〈どんでん返し〉の科学史 蘇る錬金術、天動説、自然発生説』

小山慶太『 〈どんでん返し〉の科学史 蘇る錬金術、天動説、自然発生説』(中公新書、2018年) 今となっては荒唐無稽な概念として扱われる錬金術、天動説、不可秤量物質、自然発生説などをキーとして科学史を描き出した一冊。物理学や電磁気学、生物学など様…

河口俊彦『一局の将棋 一回の人生』

河口俊彦『一局の将棋 一回の人生』(新潮文庫、1994年) 「新人類の鬼譜」「運命の棋譜」「待ったをしたい棋譜」の三部からなる河口老師の将棋エッセイ集。 今となっては想像できないが、羽生もなかなかタイトルが取れないと言われていた時期があった。逆に…

パウル・ベッカー『西洋音楽史』

パウル・ベッカー(河上徹太郎訳)『西洋音楽史』(新潮文庫、1955年) 1924年に行った1回30分×20回のラジオ講義を基にした西洋音楽史。ギリシャ音楽から現代(1924年)までの西洋音楽を形式変化の歴史、「メタモルフォーゼ」の歴史として捉えている。私は音…

中村真一郎『頼山陽とその時代』

中村真一郎『頼山陽とその時代』(中央公論社、1971年) 戦後文学の旗手であった中村真一郎は妻の自殺によって酷い神経障害に陥った。神経を病んだ彼にはおだやかな意識統一が必要であり、刺激の少ない江戸漢詩や詩人伝を読むことは格好のリハビリテーション…

吉村昭『間宮林蔵』

吉村昭『間宮林蔵』(講談社文庫、1987年)[単行本:講談社、1982年] 択捉島シャナ会所へのロシア船襲撃から物語は始まる。僅かな人数のロシア人に怯え武士たちは無様に逃げ出す。しかし、そのなかで間宮林蔵は強く抵抗することを訴え、自分だけは抵抗しよう…

鹿野雄一『溺れる魚、空飛ぶ魚、消えゆく魚 モンスーンアジア淡水魚探訪』

鹿野雄一『溺れる魚、空飛ぶ魚、消えゆく魚 モンスーンアジア淡水魚探訪』(共立出版、2018年) 著者の淡水魚への愛、そして淡水魚の住む環境への愛は非常に強い。魚への態度はまさに現場派といってよく、学会の昼休みには網とバケツを持って魚とりに出かけ…

東京都写真美術館「『光画』と新興写真 モダニズムの日本」

東京都写真美術館で「『光画』と新興写真 モダニズムの日本」が開催中だ。戦後写真に埋もれがちな戦前写真をしっかり取り上げる展覧会には非常に興味があり、久しぶりに都写美に足を踏み入れることとなった。 絵画の支配下にあった写真が独自の芸術的位置を…

熊倉功夫『後水尾天皇』

熊倉功夫『後水尾天皇』(中公文庫、2010年)[『後水尾院』(朝日新聞社、1982年)→『後水尾天皇』(岩波同時代ライブラリー、1994年)を加筆修正した文庫版] 織豊政権から江戸幕府確立まで移行期は、成り上がりの可能性を秘めた下剋上の時代から、社会変動…

東京ステーションギャラリー「くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質」

北海道から帰宅する飛行機が大幅に遅れ、急遽東京駅近くで一夜を明かすことになった。せっかくなので翌朝に「くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質」開催中の東京ステーションギャラリーへと向かった。 この展覧会は、今まで隈が手がけてきた様々な…

萩原朔太郎『詩の原理』

萩原朔太郎『詩の原理』(新潮文庫、1954年 青空文庫:http://www.aozora.gr.jp/cards/000067/files/2843_26253.html) 詩とはなにかという疑問に真っ向から対峙して普遍的な答えを導こうという萩原朔太郎の詩論。内容論と形式論に分けて、明晰な言葉で詩を…

瀬川拓郎『アイヌ学入門』

瀬川拓郎『アイヌ学入門』(講談社現代新書、2015) アイヌ=縄文人という認識を持っている人間は少なくないだろう。当然、完全な等号で結ぶことはできないとわかっていても、縄文から変わることなく太古の生活を守り続けてきた民族としてアイヌを捉えている…

吉川英治『三国志』

吉川英治『三国志(一)~(八)』(吉川英治歴史時代文庫) 断片的には知っているが実際には読んだことがないという作品はかなり多い。『三国志』はそのような作品の一つであった。「水魚の交わり」「泣いて馬謖を斬る」「死せる孔明生ける仲達を走らす」な…

熊本市現代美術館「熊本城×特撮美術 天守再現プロジェクト」展

先日、初めて熊本市を訪れた。少し熊本市街地を散歩した限りでは、地震の影響を感じさせるような場所は多く無かった。 しかし熊本の多くの文化財にはまだ影響が残っている。横井小楠の四時軒や徳富蘇峰旧邸には未だに立ち入ることができない。そして、何より…

「ラーメン亭一番」の冷麺@大分県別府市

別府と言えば温泉だが、もう一つの名物に冷麺がある。盛岡冷麺は朝鮮半島がルーツらしいが、別府冷麺は満州からの引揚者がルーツらしい。 今回は「ラーメン亭一番」に訪れた。別府駅から徒歩数分のところにある店だが、観光客向けという感じはしない。日曜定…

埼玉県立近代美術館「版画の景色 現代版画センターの軌跡」

「現代版画センター」についての詳細を知っているという方は戦後美術について相当通暁していると思われる。センター活動時には生まれてすらいない私は展覧会の名前を聞くまでは存在すら知らなかった。 知らないとはいえ、埼玉近美で現代美術を取り上げるとき…

吉村昭『戦艦武蔵』

吉村昭『戦艦武蔵』(1971年、新潮文庫)[単行本 1966年、新潮社] 漁具に用いられる棕櫚の繊維が市場から姿を消し、漁師たちが異変に気がつく場面から作品は始まる。安定供給されているはずの棕櫚が消えることに漁師は首をひねるばかりだ。この棕櫚を買い漁…

小泉義之『あたらしい狂気の歴史 精神病理の哲学』

小泉義之『あたらしい狂気の歴史 精神病理の哲学』(2018年、青土社) この本が追うのは「狂気」とは何かという問いではなく、「狂気」を取り巻いてきた精神医学と実践の歴史である。精神医学への筆者の強い疑念は、「はじめに」で直接的に表現されている。 …

海音寺潮五郎『二本の銀杏』

海音寺潮五郎『二本の銀杏(上・下)』(1998年、文春文庫)[初出:昭和34年10月21日~36年1月6日「東京新聞」夕刊] 昭和の時代小説作家といえば必ず名前が出るのが海音寺潮五郎であるが、読んだことは無かった。手にとって見ると、重苦しさを感じさせない文…